医療法人スマイル会 よしだ歯科 理事長 吉田 真一郎様
全国有数のリーディングクリニックであるヨリタ歯科の激動期に副院長を務め、平成17年、32歳の時にユニット4台で開業。思い描いた理想とは裏腹に、開業2日目にしてスタッフが口をきいてくれないという現実に直面。
持ち前のリーダーシップと真摯な努力により、開業3年目には医業収入1億円を突破するが離職率が100%という異常な状態が続く。この状況を打開するため、院長としてのマネジメントスタイルを大きく変え、スタッフが個性を伸ばしながら、自主的に力を発揮するチームをつくりあげた。2017年1月にはリニューアル増床、現在ではユニット13台、地域最大規模の人気医院となっている。
今野 有名なヨリタ歯科クリニックさんで勤務を終えて開業されたということでお話を伺っています。
吉田 はい。ヨリタ歯科クリニックで丸3年で予定通りというか、場所を決めて開業準備をし、卒業したという感じでした。
今野 いよいよ開業ということで、新しい一歩を踏み出されたということなんですけれども、事前のお話を伺っていますと、先生はすごい強運の持ち主で、人からもすごく愛されて、しかもヨリタ歯科クリニックさんで厳しく教育されてということで、客観的に見たら、開業したら、もうすっと成功していくのかなというイメージで私も思っていたんですけれども。
吉田 僕もそう思っていました。
今野 かなり苦労されたということもお伺いしていますので、まずは開業から、実際先生が経験されたご苦労の部分をエピソードを教えていただければと思います。
吉田 開業は私と歯科医師の家内と、衛生士さんが2人、受付1人というスタートでした。
衛生士さんも私が研修医の時に一緒に研修をしていた7~8年の付き合いの衛生士さんと、あとヨリタ歯科に実習生で来ていて本当に笑顔の可愛らしい真面目な衛生士さんだったので、もう完璧な布陣だなと思ってスタートをしたんです。
でも開業2日目から口はきいてもらえないし、「院長腹立つわ」と言って、ロッカーを蹴っている音がスタッフルームから隣の院長室まで聞こえるし、「あれ?」と、ヨリタ歯科でやっていた時には尊敬する副院長みたいに言われていたのに、院長になったら何でこんなにも周りの評価が違うんだろうと、もう戸惑いが大きかったです。
今野 開業2日目ってすごいですよね。
吉田 でも実は開業する前に3週間一緒にトレーニングを、スタッフを決めてしていたんですけれど、開業前に受付さんがオープン前に1人辞めて、お断りした人にお願いして結局その人に入ってもらったり。だから、その時から雇っていた衛生士さんとの関係が悪かった、彼女たちも僕にすごい期待をしてくれていたのに、期待にほど遠い人間性、歯科医師としての実力、リーダーシップだったと思うので、期待が大きかったから落胆も大きかったのかなと今となっては思います。
今野 なかなかご自身の分析というのは難しいと思いますし、喋りたくない部分もあるかとは思うんですけれど。
吉田 いえいえ、大丈夫です。
今野 ロッカー蹴る程、腹が立つというのは、一体何に腹が立っていたんですかね。
吉田 僕の開業した時の頭の中に一番あることというのは、1億を超える借金。早く借金返さないと。もうそれに支配されていたと思います。
患者さんが来てくれないとキャンセルになってもイライラ。「患者さんを増やせ増やせ、入れろ入れろ」って言うけれど、一気に来ると実力がないので治療が上手く回らず慌てる、イライラ。
なので、もう1日何百回もイライラして、「どうしましょう?」という相談に対しても、「今言うなよ」みたいなことを、多分言っていたんだろうなと。
やっぱり常にイライラしていたと思います。どこがスマイル会やっていう、看板に偽りありな。
今野 なるほど。
吉田 大きいこと言わなければいいんですけどね。理想を語りながら現実があまりにも伴っていなかったので。
今野 なるほど。理想を語るとかは、もう最初から先生されていたんですね。
吉田 そうですね。夢を語り、「こんな医院つくりたいんだ」ということを言い続けて、後ろを見たら誰もついてきていないっていう。
今野 なるほど。でも一番大きいのは、現実的には1億という大きい借金をしていますので、やっぱり経営的な面でそういうプレッシャーというのが、ものすごく。
吉田 プレッシャーは大きかったですね。
今野 なるほど。それでも3年目には、もう1億突破とお伺いしているので、傍目から見ると患者数は増えて順調に伸びていったということではあるかと思うんですが、内部ではそれ以外にも、ずっと人が入っては辞めて、入っては辞めてということが続いていたんですか。
吉田 そうですね、残っている人も我慢してという感じだったと思います。
今野 なるほど。この辺がスタート地点だとは思うのですが、これに対して、先生はどういうふうに、何がきっかけで逆転打を打っていかれたのか、その辺もお聞かせいただけますでしょうか。
吉田 そうですね、ヨリタ歯科に勤務していた時というのは、経営戦略研究所の岩渕さんがコンサルで来られていて、経営であったり、理念構築であったり、医院内に想いの共有であったり、色んなことを手伝ってもらっていて、開業の時に経営のことも少しは学んでいるから、とにかく自分の力でゼロからやってみようと思ったんですけれど、あまりにも上手くいかない。
患者さんだけは来てくれていて数字は上がっていても、もう勤務の時のストレスの何十倍ものストレスになり、そのストレスをいつも家内に当たり続けて、スタッフに言えないから家内に言うみたいな感じで本当に苦労かけたなと思っているんですけれど、岩淵さんに、「私の実力が足りないので、ぜひちょっと力を貸してほしい」と言って、コンサルタントとして来ていただいたというのが、1つきっかけになったかなと思いました。
今野 じゃあ、ここからサポートを受けつつ、少しずつ。
吉田 そうですね。その時も院内スタッフは10人ちょっとくらいの時だったんですが、岩淵さんであったり、その片腕の横山さんがスタッフの個人面談をしてくれて、その後に、「こういうことを改善した方が良い」と、夜中2時過ぎまで院長の駄目出しを聞くんですね。「僕が雇っているのに、何でここまで言われなあかんのやろ」と。
今野 2時過ぎまで。
吉田 お説教というか、そこもまた駄目出しをずっとくらっている気がして、コンサルタントを頼むってこんなに辛いことなんだと思ったんですけれど、それだけ状況が悪くて、膿が溜まっていたということだと思うんです。
でもそこで、「いや、何言ってんの」っていうふうになったら何も変わらないので、真摯に受け止めて、1つずつ小さなことから改善していこうと思って、口だけ院長から、小さいことでもとにかく改善改善していこうというふうにしていくと、やっぱり空気が変わってきました。
分かってくれる人も増えてきて、医院が徐々に一体化し始めたんですけれども、どうしても上手くやっていけない人がいて、その衛生士さんとの関係が、僕的には表面上では上手くやっていっているつもりだったんですけれど、裏では「どうせ、うちの院長は話、しっかり聞いてくれないから」というふうになっていて。
周りのみんなも、「あ、うちの院長はそういう人なんだ」っていうふうになっていたんですけれど、徐々に変わってきた時に、「あれ、何かその人が言っている院長と、実際に行動を見ている院長が何か違うような気がする」ってなってきて、僕を信じて残ってくれる人と、「駄目だ」って言う人とで分裂というか、辞める人は数人辞めて、そこから、今もうちのスタッフのリーダーとして頑張ってくれている寿木さんを中心とした、残ってくれるメンバーというのが明らかに分かれきました。
寿木さんが中心になって一体化したメンバーでやり始めたら、そこから本当に加速的に医院が前に進むようになって、以前から業界の中では注目はしていただいていたとは思ったんですけれど、実際の医院というのは見学に来ていただいても、「いや、そんな言うほどじゃないよ」って言われていたところが、彼女たちの頑張りによって、本当のスマイル会になってきたかなと思いました。
今野 その辺が先生の医院経営の第1期というような感じの。
吉田 そうですね。
今野 じわりじわりという感じだったんですかね。
吉田 大きなのは当時のリーダーと僕との不仲で、結局はその彼女が退職になってしまったんですけれど、そうなってから寿木さん中心のメンバーになって一気に良くなった。
それが大きなきっかけではあったと思います。その彼女は決して悪いとかじゃなくて、やっぱり僕が話を全然聞いてあげられてなかった。思い込みが激しく、きっとこう思っているに違いないとか、内にこもってというか、もう本当にスタッフからすると何を考えているか分からない。
いつもイライラしている自分勝手なわがままな子供っぽい院長だったんだと思います。
今野 なるほど。先生自身が徐々に実践されていったとお聞きしたんですけれど、ご自身が変わったという部分は何かあったんですか、この中で。
吉田 そうですね、岩淵さんとの出会いの中で勧められたセミナーがあって、それが日本創造教育研究所、日創研と呼ばれるところなんですけれど、そこはとにかく「ありがとう経営」。社員に感謝、お客さんに感謝、自分自身、家族にも感謝。
うちで言うと、地域の自治会の人であったり、そういった周りの人への感謝を表し続けること。自分自身の健康であったり、元気に頑張れること、もう全てに感謝ということを教えていただいて、感謝力の大事さとか、僕言葉では言っていたのに、1個も行動には移せていなかったなということに気づかされて、そこから小さいことでもとにかく「ありがとう」という言葉と行動をし続けることによって、本当に積み重ねたことによって、徐々に変わっていったなと思います。
今野 なるほど。それで一番最後のところで、人が最終的には入れ替わって、相応しい人が相応しいポジションについてからは本当に変わったという感じなんですね。
吉田 そうですね。
今野 1つご質問したいんですけれど、色んな医院さんで出てくるケースで、先生のところで言うと、辞めていった衛生士さんみたいに仕事はできるけれど、中の空気を壊すし、人との喧嘩も多いみたいな。
いてもらうとトラブルは多いんだけれど、何かあった時に仕事ができるから温存するべきかどうするかというケースをすごくよく見るんですけれど、そういう相談されたら、先生はどういうアドバイスをされますか。
吉田 うちの経験上、仕事が出来るよりも結局、信頼関係が構築できない人とは仕事は出来ないので、仕事のスキル、手先のことは、あくまで目先のことで、それよりも人として本当に信じあえるかというところじゃないかなと思います。今思えば退職やむを得ずかなとは思います。
今野 ありがとうございます。これ、本当によく見るんですよ。1回治まっても、また同じことを起こすそうですよね。
吉田 でも誰かのせいにして、辞めてもらうだけでは結局何も変わらないので、僕が当時思ったのは、彼女そのものを受け止める器がなかったんだなと今は思っていて、本当に能力高く、発信力もある方だったので、その彼女としっかりと関係がつくれていたら居場所をつくれてあげられていたのになと、僕自身の力のなさというのを痛感させられています。
今野 なるほど、もう一段、自分成長していれば、もしかしたら共存できたかもしれない。
吉田 と思います。人のせいにしても、結局何も変わらないです。それは開業して気づかされた大きな気づきの1つです。
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