バブル崩壊 逆境のなかでの開業の苦労

医療法人社団翔志会 理事長 武知 幸久様

1989年徳島大学歯学部卒後、1997年、バブル崩壊後の大不況に煽られ、銀行からの融資を受けられない状況の中、路地裏の目立たない立地にユニット2台でたけち歯科医院を開業。不利な立地も祟り、開業後の1年は集患に大苦戦するが、コストダウンと地道な患者満足度向上が実を結徐々に業績が向上。

現在、ユニット9台、スタッフ数36名、医業収入4億4千万円、自費率45%というハイパフォーマンスな歯科医院を作り上げた現在も、スタッフ主導型の医院を目指して教育体制の構築や改善活動に取り組み続けている。


今野 それでは、早速お話を伺って行きたいと思います。まず冒頭でもご紹介させて頂きましたが、現在、ユニット9台、スタッフ数約30名という高いパフォーマンスを発揮する組織を運営されている武知先生ですが、開業前後は、相当なお悩みや苦労があったとお聞きしています。

 

まずは、ご開業からその後一定の軌道に乗り、最初にマネジメントの課題に当たられるまでのお話を、エピソード等も含めてお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

 

武知 はい。開業した時はお金を借りる事に苦労しまして、実は借金ができなかったので、自分が開業したい時期から3年ぐらい遅れてしまったのです。

 

お金の借り入れができない状況で開業したものですから、結構カツカツなのです。最初にご紹介頂きましたけれども、一方通行で前の道は誰も人が通らないような場所で、業者の方によく路地裏開業と言われました。なぜここで開業したのですかと言うような所で開業しました。何故そこで開業したかと言うと、固定費が少なく済むので借入金の返済の負担が少ないだろうと思ったのです。

 

ところがそういった所で開業すると、当時はインターネットという物が無かったので、とにかく広告が限られているのです。電話帳広告や看板しか無くて、そうなると患者さんにお越し頂くのがなかなか難しいのです。口コミしか手段が無くて、そういった所で最初は本当に苦労しました。開業当初は珍しいという事で、初診の方が少しは来てくださるのですけれども、2カ月、3カ月経つと、初診の波も途絶えてきて、なかなかそこから患者さんが増えないのです。本当に最初の1年間は苦しかった。今でも思い出したくないぐらい苦しかったです。

 

今野 私も医院さんのお手伝いで、もちろん集患のお手伝いをして欲しいというケースですけれど、立地が悪く相当お金を掛けないと改善しないケースを何件か見てきたので、何となく想像はつきます。

 

それでも1年間かけて、少しずつは増えていったとお聞きしています。その間意識して取り組んでいたのは、どういった事ですか。

 

武知 患者さんに喜んで頂く事が一番大事で、ここに来てよかったという事が口コミで広がると考えていましたから、いかに患者さんに満足して頂くか。

 

例えば一つの治療があるとしたら、プラスアルファ何か一つ足す事を常に意識して、そこで満足度を上げていく事を、一人一人の患者さんに常に意識していました。

 

今野 実際に段々と軌道に乗ってきたと思われた時期、もしくはどういう状態でそのように感じられたのですか。

 

武知 口コミの患者さんが増えてくると、問診票に誰の紹介かを書いてくださる方が増えてきて、ようやく認知されて来たというのが実感として少しずつ湧いてきました。

 

患者さんが増える事は、僕にとって凄くありがたい事なのです。けれど、働いている人たちにとっては、成長曲線があって、あるとき突然業績が上がって患者さんが増えてくるのです。そうなるとスタッフさんがそれに付いていけない状況が起こります。後々これが大きな問題に発展してしまったのです。

 

今野 実際の1日の来院数やレセ件数でいうと、どの位からそういうスタッフの聞こえない悲鳴を感じたのですか。

 

武知 当時の事なのでどうでしょうか。1日の来院数で言うと、30人を超えてきた位から、段々スタッフが疲れてくると言いますか。

 

当時は2台でやっていましたので。開業して上手く流れに乗ってくると、スタッフがメニエール病、眩暈がする病気なのですけれども、それになって倒れるとある本に書いてあったのですね。

 

同じ事が院内で本当に起こったのです。びっくりした覚えがあります。

 

今野 先に本は読んでいたのですか。

 

武知 読んでいたのです。そんな事があるかと思っていたのですけれども、本当にありました。

 

今野 その時はどう思ったのですか。

 

武知 歴史は繰り返されるのだと思いましたね。

 

今野 それが合図になって、色々とその後の動きが出てきたという感じなのですか。

 

武知 そうですね。スタッフ数を増やす事は固定費が増えるということで、最初はそこを抑えていたのです。でもそうなってくると繋がらないといいますか、上手く循環して行かなくなるので、そこからスタッフを増やす事を少しずつ考えるようになったのです。

 

当時は今のように、マネジメントの仕方や経営の仕方を教えてくれる方も居らっしゃらなかったですし、そういった媒体も無かったのです。試行錯誤しながら、どうしたら良いかを日々考えていた時代でした。

 

今野 その頃の先生ご自身もストレスとか、先程紹介で話をさせて頂いたのですけれども、体調を崩されたというお話もありましたが、この時期の精神状態はどういう状態だったのですか。  

 

武知 大体帰るのが毎日12時を回るのです。終わった後に、事務処理等も全部自分でやっていましたから。朝も早く起きるので睡眠不足で、しかも月曜日から土曜日までフルタイムで仕事をして、12時を回るまで仕事をして、日曜日は学術系のセミナーに行くので休みが無いのです。

 

当時はまだ30代で若かったから良いですけれども、体力的にしんどいと気持ちの面で精神的にも余裕が無くなってくるので、心身共に疲れるというのはああいう事を言うのだろうなと思います。

 

今野 事前の打ち合わせをさせて頂いた時に、職業が変わったというような表現をされていらっしゃって、なるほどなという感じがしました。

 

所謂、勤務医の時と、自分でクリニックを作って院長になるというのは、それだけ違いがあるという実感のこもった言葉だなと思いました。

 

武知 勤務医の時は治療以外の事を考える必要が無かったのです。でも開業すると、勤務医の時には見えていない物が、大きな問題として色々目の前に直面してくるのです。

 

時にはそれが大きな壁として前に表れてきたりと、色々ありました。

 

今野 仮にもしこのCDを聞いてくださる方に、開業前の先生が居らっしゃると想定して、準備段階でこれだけはアドバイスしておきたいという事はありますか。

 

武知 今、開業される先生は、凄く準備される先生が多くて、開業を色々学んでいらっしゃる先生が多いと思うのです。ただ、そこで教えて貰えないのがスタッフさんとの関わり方や、もしくはどういったスタッフさんを採用していくかと言うことです。

 

予め自分がどんな医院を作って行きたいかを、様々な医院さんに見学に行かれたり、本を読まれたりして、自分でイメージしておくことが凄く大事かなと思うのです。

 

今野 確かに。本当に準備しないまま物件が決まったら、一気に開業される方がいますからね。

 

武知 数値的な部分は、割と色々な所で学べるとは思うのですけれども。

 

今野 特にこういう人事の部分や、自分がどういう医院を作りたいかという部分をよく考えた方が良いという事ですね。

 

武知 はい。

 

今野 ありがとうございます。

 

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